少子高齢化が進む離島で在宅医療に携わる薬剤師が目指す、超高齢社会のモデルとは

Yamano Atsushi 
2019年入社 #在宅医療専任薬剤師育成プログラム #離島の医療

長崎県対馬市で在宅医療に携わる薬剤師の山野 淳史さん。団塊世代が75歳以上に達し、全人口の4人に1人が高齢者となる2025年を前に「対馬はすでに超高齢社会。日本がこれから直面する問題との向き合い方に関して私たちがモデルを示したい」と語る山野さんに、離島の現状や日々の業務について聞きました。

  • 結婚を機に対馬へ。常に、安心して薬を服用できる環境を整えることを最優先に

    • 山野さんが勤務するのは、総合メディカル株式会社 壱岐・対馬ブロックに所属するそうごう薬局 豊玉店。島のほぼ中央に位置し、湾へと注ぐ川のほとりに建ち、薬剤師3名と事務職員2名が在籍しています。直近の目標は、豊玉店が「地域支援体制加算」の基準を満たすこと。これは、かかりつけ薬剤師が機能を発揮し、地域医療に貢献する薬局の体制を国が評価するものであり、在宅体制の整備や地域医療への貢献に係わる実績などが求められます。社会からの期待に応えるために、全員で協力し合う職場です。

      山野さん 「これは私たちのミッションのひとつであり、なかなかハードルの高い目標ですが、みんなでクリアしようと日々の仕事の中でも共有しています。私自身は2022年から物販リーダーに任命され、店舗ではお客様に健康食品やサプリメントを提案する機会も少なくありません。体調を伺った上で、体への負担が少ない一般用医薬品などをおすすめしています」

    • また、山野さんは在宅医療に特化した薬剤師としても活躍。連携する医師、地域のケアマネジャー、島内最大の系列店であるそうごう薬局 対馬中央店から「そうごう薬局で介入できますか?」「山野さん、担当できますか?」と問い合わせがあると言います。

      山野さん 「慌ただしい毎日ですが、最近、薬局長になるために、登竜門となる社内研修を受けました。これが薬剤師の在り方について原点回帰する機会になり、印象的でした。患者さんに最大の配慮をしながら、安心して薬を服用できる環境を整えることが私たちにとって何よりの仕事だと改めて気づくことができたんです。当社が目指す、よりよい医療の提供にも直結していることですね」

    • なお、山野さんは 大阪府の出身。大学時代に結婚し、出産と子育てのため奥様の実家がある対馬へとやってきました。休日は双子の子どもたちと一緒に公園で遊ぶほか、朝一番で同僚と釣りに行き、そのまま家族ぐるみでバーベキューを始めることも。対馬は青魚がおいしく、良質なイカの漁場でもあり、焼いたり刺身にしたりして楽しんでいると言います。

  • マネジメントと専門性の両面で成長中。離島で鍛えられてきた先輩方のおかげで今がある

    • もともとの夢は美容師だったと言う山野さん。しかし、薬剤師である両親からの強いすすめもあり、大学では薬学部へ入学。当初は後ろ髪を引かれる想いもあったそうですが、講義を通じて「ひと粒の薬で多くの患者さんの健康を維持できる」と知り、この道に進むことを決意したのです。

      そして結婚後、そうごう薬局 対馬中央店のすぐそばに新居を構えたこともあり、就職先も夫婦そろって総合メディカルを選択。なかでも山野さんは、島内の病院で薬剤部長を務めている義理の父への憧れもあり、対馬で薬剤師として働くことに多くのやりがいを見出すようになったと振り返ります。

      山野さん 「こうしたバックボーンがなくても、そうごう薬局を知った今なら改めてこの会社に入社したい、と断言できます。当社では薬剤師に2つのキャリアコースがあり、マネジメントか専門薬剤師のいずれかを選ぶことができますが、私は幸いにも、今その双方を経験できているからです。

      『多くの人を動かし成果につなげるマネージャー』と『特定の領域に精通した専門家』の両面での成長を会社が応援してくれることに深く感謝しています」

    • 入社当時、壱岐・対馬ブロックへの配属を希望する同期が少なく、山野さんは人手不足のためいつも走り回っていたと言います。しかし患者さんはいつでも薬を必要としており、お待たせすることで余計なストレスを与えてしまいかねない状況が続き、自身が働き始める前に想像していた以上の大変さがあったと言います。

      山野さん 「それでも、この対馬で鍛え上げられてきた先輩方のサポートのおかげで乗り越えられました。日々をエネルギッシュに過ごす姿を見て『いつか、こうなりたい』と思わせてくれたことが原動力になりましたね。

      さらに上司のフォロー面談もあり、メンタル面でも不安は取り除いてもらえていましたから。アグレッシブに働けている今の私の基礎を作ってくれた上司・先輩方に感謝するばかりです」

  • “薬剤師にできること”の幅を広げ自信をくれた「在宅医療専任薬剤師育成プログラム」

    • 日常的に在宅医療に関わる山野さんは、2021年に総合メディカルの「在宅医療専任薬剤師育成プログラム」を受講。対馬に限らず、全国的に人口減少と少子高齢化が進む中、地域医療の重要性が高まるとともに在宅医療が注目されています。この分野に精通し、医師やケアマネジャーと連携できる薬剤師を育成しようとスタートした研修で、山野さんはその第1期生です。

      山野さん 「『自分にはどこでも通用する知識やスキルが身についているのだろうか』と自信を持てずにいたとき、上司の後押しもあって受講を決めました。プログラムは1年にわたり、基本的に月1回のオンライン形式で行われ、在宅医療の場面で必要な各要素を網羅。私と同じように『在宅医療の仕事を自分のものにしたい』『より上位レベルの専門薬剤師になりたい』と考える社員が参加していましたね」

    • 受講者全員が参加する、関東地方にある外部施設での対面研修もあり、輸液のルート確認や無菌室での点滴調剤といった高度な実習もありました。本来は看護師の仕事である採血も体験し、その苦労を肌で感じています。

      さらに、在宅医療に携わる医師、栄養士、薬剤師、歯科医、ケアマネジャー、患者さんの役になってロールプレイに臨む場もあり、チーム医療の在り方を考える機会になりました。それまで患者さんの薬や生活面にばかり着目していた自分に気づかされ、「この職種が、こんな領域まで広くカバーしているなんて」と、全体像の大きさを実感できる充実した研修だったと言います。

      山野さん 「貴重な機会を逃したくなかったので、オンライン研修でも終了後によく質問をしていましたね。たとえば、ケアマネジャーが作成したケアプランの中に薬局の訪問が含まれていないにもかかわらず、医師から患者さんの居宅を訪ねるよう指示があった場合はどうすればいいのか、など。

      自分で調べても答えが出しきれない、経験則に基づいた見解を尋ねていました。本部スタッフの方や、在宅医療において経験豊富な専門薬剤師の方がいつも親身に答えてくれて、とても学びが深まりました」

    • 在宅医療専任薬剤師の研修プログラムを経て「ひと言でいうと、すごく自信がつきました」と山野さん。自分の取り組みが正しかったと確信するとともに“薬剤師にできること”の選択肢も増えて成長を実感しています。

  • 対馬にあるのは少し先の日本の姿。周囲を巻き込み、離島ならではの在宅医療推進へ

    • いわゆる「2025年問題」という言葉があるように、日本はここから超高齢社会を迎えます。山野さんがいる対馬はすでにこの状況にあるとも言われ、逆に、本島にはない条件下で在宅医療と向き合うことが可能です。

      山野さん 「対馬には高齢者が多く、すでに、日本の少し未来の状況があるといえますから、とにかく在宅医療においては最先端であることを目指したいです。私はこれまで『地方では地域医療や在宅医療が進んでいる』と思っていましたが、研修で新たな知識を得たこともあり、実際には不十分であると理解しました。

      マネジメント能力を身につけて周囲を巻き込み、壱岐・対馬ブロックの在宅医療を推進する立場になりたい。強い責任感で患者さんの悩みを解決していきたいです」

    • 山野さんには、毎月訪問する老夫婦との印象的なエピソードがありました。用意してくれているお菓子が乾いてしまうほどに、ご主人と長時間にわたり話し込んでいると言います。そのようにじっくりお話の時間をかける訪問を続けたところ、あるとき不意に、「実は、妻がふたつ飲まないといけない薬のうち、ひとつをいつも捨ててしまうんだ」という、本当の課題が見えてきました。こういった何気ないコミュニケーションの中から浮かび上がるものこそが、在宅医療では不可欠だと山野さんは考えています。

      山野さん 「これから在宅医療の分野を目指す社内の薬剤師の皆さんには、ぜひこの1年間のプログラムを受けてみてほしいですね。私のように一歩を踏み出してみると、1年後には間違いなく成長できている自分に気づきますから。

      今はまだ『マネジメントや専門薬剤師は遠い存在』と思っている人にも、いずれチャレンジの機会が訪れるはずです。同じ価値観で、皆で目線を合わせながら、総合メディカルをさらに盛り上げていきたいですね」

    • そして、総合メディカルへの入社を考えている人には、このような離島での勤務にも注目してほしいと語る山野さん。

      山野さん 「たとえば対馬では、全体的に薬剤師の年齢が若い上に、業務はひとつの店舗にとどまりません。都市部に比べて早いうちからブロック単位でのマネジメントを考えられるようになることは、長期的に薬剤師人生を捉えてみても、プラスになるはずです」

    • 日本の未来の姿がある離島だからこそ、最先端の在宅医療の可能性がある──その可能性を追求しながらよりよい在宅医療を実現していくべく、山野さんは前進を続けていきます。