学生時代から貫く想い。薬剤師として患者に寄り添う在宅医療を
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▲仕事をする上で大切にしているコトバ「悔いのない人生」
メンバー全員が薬局内業務と在宅医療のどちらも対応。情報共有し、順番に伺うシステム-
薬学生時代から抱いていた「在宅医療」に携わっていきたいとの想いを貫き、総合メディカルへと新卒入社。その後、総合メディカルのグループ会社の一つであり、業界に先駆けて在宅医療に取り組んできた「みよの台薬局」へと出向し、志宝薬局 田園調布店での勤務を続けている奥田さん。2023年11月から育児休暇取得予定の現在は、主に薬局内で業務を行っています。
「具体的には、薬局を訪れる患者さんの窓口対応のほか、在宅医療でお届けする薬の監査(最終チェック)や、医師や看護師・ケアマネージャーの方々とのやりとり、あとは注射薬の混注などの無菌調剤といった在宅医療のサポート業務も担当しています」
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志宝薬局 田園調布店に在籍する薬剤師は、時短勤務を含める正社員・契約社員・パートスタッフなど合わせて10名。その全員が在宅医療対応可能な状態で、訪問時の運転を担当する専任のドライバーと共に、患者さんのご自宅訪問や介護施設などへの往診同行を通常の薬局業務と並行して行っています。
「志宝薬局 田園調布店では、在宅訪問に出かける時間帯を午前と午後の大きく2つに分けています。私は午後を担当することが多かったですね。おおむね15時ごろに出かけて、薬局に戻ってくるのが20時ごろです」
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1日に訪問する件数は10〜15件、多い時はさらにそれ以上になります。
「在籍する薬剤師全員が、薬局内の業務も在宅医療もどちらも対応できるので、患者さんの担当制は敷いていません。メンバー全員で情報共有し、順番に伺う体制です。私は、メンバーの中でちょうど中堅の立場で、経験豊富な先輩方から教えてもらうことはもちろん、後輩に教えることもあります」
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志宝薬局 田園調布店では、処方箋の数でいうとひと月あたり1,800枚程度を受け付けていますが、そのうち半分弱が在宅用です。もちろん無菌調剤も行っており、薬局内にある「クリーンベンチ」という無菌ルームで中心静脈栄養と痛み止めの麻薬の主に2種類を調剤しています。
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▲無菌調剤をしている奥田さん
薬剤師全員が在宅医療に対応可能だからこそ、お互いに支え合いながら患者をサポート-
奥田さんが在宅医療に携わっていきたいと強く思うようになったのは、「自身が患者の家族」として、患者さんと医療に向き合った経験が大きいと言います。
「私が大学在学中に、父が肝臓がんで亡くなりました。父は家が大好きで、いつも『帰りたい』と言っていましたが、最期を自宅で迎えることは叶わず、病院で亡くなったのです。
その後、すぐに5カ月間の実務実習が始まりました。実習先でも、がんの末期や心不全の末期の患者さんたちとお話しする機会がたくさんありましたが、やっぱりその方々も『帰りたい』とおっしゃるのです。『家に帰りたいけれど、こんな状態じゃ無理だよね』と」 -
「父と同様に、こんなに多くの家に帰りたい人がいるのか」とあらためて思い知ったと言う奥田さん。しかし、末期状態の患者さんが家に帰るということは、非常にハードルが高いのが実情です。
「末期の患者さんが自宅に帰るためにはいろいろなサポートが必要ですし、ご家族にとっても大きな負担です。私が住んでいたところもそうでしたが、全国どこでも可能なわけではありません。
しかし、だからこそ私は、在宅の中でも終末期の患者さんや看取りの医療に携わりたい。その一員になりたいとの想いで就職活動を進めました」 -
そして、みよの台薬局の在宅医療インターンシップに参加します。
「社員の方と一緒に患者さんのお宅を訪問して、お話しする機会をいただきました。想像していた通り『やはり在宅医療には大変なこともたくさんある』と、良い部分だけでなく携わっているからこそわかる真実も伝えていただけました。
その上で『奥田さんならできるよ』と背中を押していただけたことが、入社の大きな決め手です。たった一日の実習でしたが、私にとって新鮮でかけがえのない経験になりました」 -
入社後は希望通り、現在の職場へと配属になりました。しかし、その反面患者さんの生活や人生に深く入り込む在宅医療が、本当に自分にできるか当時は不安だったと語ります。
「1年目の秋ごろから一人で在宅に出るようになりましたが、経験も知識もない自分が行くことは、患者さんにとって不利益になってしまうのではないかと悩みました。
経験豊富な先輩ならもっといろんなことに気づけるかもしれない、私が行くことは患者さんにとって良くないのではないかと考え込んでしまったのです。加えて、予期せぬトラブルが起きたときに対処できるかどうかもすごく不安でしたね」 -
やりたかったことであるにもかかわらず、不安でいっぱいになってしまった奥田さんを救ってくれたのは、ある先輩の言葉でした。
「『とにかく患者さんのところに行き、患者さんや家の状態をしっかり観察して、戻ったら報告して。そしたらみんなで考えるから』と言ってくれたのです。この言葉が本当に心強くて。経験豊富な先輩たちがすぐそばにいてくれるからこそ、今までやってこられたと実感しています」
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▲患者さん宅に訪問する奥田さん
患者さんやそのご家族の方々の幸せなひとときを増やすお手伝いがしたい-
訪問してみたら症状が悪化していたり、他の病院で同じ薬が処方されていたり、寝たきりの患者さんがベッドから落ちていたりするなど、在宅医療の現場では日々予期せぬことが起こります。それでも、奥田さんがこの仕事を続けていられるのは、患者さんや患者さんのご家族の幸せな時間を少しでもサポートできていると思えるからです。
「一人で患者さん宅へ訪問できるようになったころ、ある患者さんで末期の肝臓がんの方がいらっしゃいました。輸液を届けるために頻繁に訪問していたのですが、『夜、眠れなくて困っている』とおっしゃっていたので、すぐに医師に報告して睡眠導入薬を処方してもらい、夜にもう一度伺いました
そしたら、ものすごく感謝していただけて。リビングの介護ベッドに横になっている患者さんの足元には飼い猫ちゃんがいて、ご家族の皆さんも揃っていました。まだ小さなお孫さんもいて、なんだかとても賑やかな雰囲気だったのです。何気ない日常の一コマだったのかもしれませんが、私が見たかった景色は『これだ』と思いましたね。
患者さんが病院で亡くなることが悪いとは思いません。しかし、どのように最期の時を過ごしたいのかに想いを馳せることは非常に大切だと思います。末期の患者さんが家に帰るとなると、家族も医療従事者も大変です。それでも、こんなすてきな景色をもっと増やしたいなと思ったことは、今でも深く印象に残っています」 -
病院にいればナースコールを押せばすぐに対応してもらえることでも、在宅だとそうはいきません。在宅の患者さんと医師が対面する機会も少なく、薬を通じて患者さんと対面できる在宅医療に関わる薬剤師の存在は、今後さらに必要だと奥田さんは考えています。
だからこそ、薬剤師として働いている人はもちろん、これから薬剤師として社会に出てくる人たちにも、このことを伝えたいのです。
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▲志宝薬局 田園調布店前で撮影
大変だからこそ、その先には大きなやりがいと自身の成長がある-
患者さんの生活全体を見つつ、患者さんに何か異変を感じたら主治医やケアマネージャーに連絡するなど、薬にまつわること以外にも気を配り、対応が求められる在宅医療での薬剤師。薬局に務める薬剤師とは違う特別なスキルが必要なのではないかと思う人も少なくありません。
「私も当初、希望はしているものの本当に自分にできるのかと非常に心配でした。しかし、とくに最初のころは専門知識より、シンプルに『患者さんが自分の家族だったら、どんな薬剤師に来てほしいか』を考えれば、自ずと答えは見えてくると思います。困ったときや専門的なスキルが必要なときには、すぐに力になってくれる先輩方も揃っていますから。
在宅医療の現場は毎日が新しいことの連続で、一日として同じ日はありません。私自身、また在宅医療の現場に戻っても、毎日が勉強、成長につながる日々だと思っています」 -
緩和ケアや終末期だけに限らず、今後さらに在宅医療への需要は増えていくと考えられます。薬局の薬剤師と異なり、在宅医療に携わる薬剤師は、患者さんに関わるさまざまな人たち、たとえば医師や看護師、ケアマネージャーなど他職種の医療従事者とのやりとりの機会も多いのが特徴です。
「在宅医療は、まさに『チーム医療』だと肌で感じられると思います。いろいろな方々とやりとりしていくことで、薬局の中だけではなかなか得ることのできない知識が身につきますし、さまざまな経験の連続です。
私はこれから育児休暇の取得に入りますが、仕事に復帰した際にはまた在宅医療に関わる薬剤師として患者さんのもとに行きたい。まだまだプレイヤーとしてやっていきたいと考えています。同時に、在宅医療には大変な部分ももちろんありますが、それを上回るほどのやりがいや興味深さがあることも広く発信していける存在になっていきたいですね」 -
患者さんとそのご家族の方々が、最期を迎える時に少しでも後悔が残らないように過ごしてほしいし、最後まで自分らしく生きることを諦めないでほしい。そのために自分ができることがあるのならやり尽くしたい──そんな強い想いは学生のころから変わっていないと語る奥田さん。
チャレンジの日々は、これから先もずっと続いていきます。
※ 記載内容は2023年10月時点のものです
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